10分休みの教室で机に突っ伏しダレていた忍足の頭を、ぽこぽこと軽い音が叩いた。
「なぁなぁ謙也、今度の練習試合、自分どこやりたい?」
うーーん・と頭を上げれば、白石が丸めたオーダー表を持って来ている。
「ちょお見して」
広げて見ると、八本の縦線と無数の横線がオーダー表の裏にでかでかと書いてあった。
「ほな俺真ん中〜」
コハル
ユウジと書かれた二本の隣をひとつ空けて、忍の字を☆印で囲む。
「よっしゃ、後は千歳だけやな。謙也、ちょぉお前千歳呼んで来てんか」
「はぁ〜?何で俺やねん!立っとんのやから自分行けや!」
軽くパシらされそうになり慌てて椅子に深く腰掛け、動かない・をアピールするが白石の方が何枚も上手で、
「自分スピードスターやろが。1秒で行って来いや」
「アホンダラ!行けるか!」
思わず立ち上がってツッこんでしまったのが忍足の残念なところ。一瞬の隙に椅子を取られ、
「ほれ、飴ちゃんやるから」
「いらんわ!けどいるわ!」
差し出された飴玉をむしり取ってダッシュで教室を出る。後でよく見たら龍角散のど飴で、食べる気をなくしてそれ以降の授業を全てふて寝で過ごしたのは言うまでもなく。
「おーい!千歳おるかぁ〜」
「なんね、大きな声出して」
開けっ放しの扉の前で、中を見もせずまず声を張り上げたら、後ろから至近距離で返事が返って来て思わず肩を震わせてしまう。
「うっわマジびびった!脅かすなアホ!」
とっさに右の裏手で千歳の腕を叩いてしまったのは、仕方のない事だろう。
「千歳、白石が呼んどるぞ。何や次の練習試合のオーダー決めるんやて」
「おー、呼びに来てくれたんっちゃね。ありがとう」
自分を見上げる忍足に、呆れ顔から一転目尻を下げる千歳。
千歳に笑顔を見せられると、忍足はなんともその場に居づらい気分になってしまう。
おう・別に…ともごもご返事を返しながらちょっと目を彷徨わせたら、
「?何や自分、えらい変な顔しとるで」
ちょっと困ったような表情を見せる千歳がいて。
「はは、何ば言いよっとか。変な顔は自分ばい」
「え?俺が?」
「そうたい」
まじまじと目を覗き込んでみると、確かに目を丸くしてボケた顔の自分が見える。
アホな顔やな〜・と千歳の瞳に映る自分をじっと見つめた時、
「〜〜ぁあ、ちょっ、来い謙也」
「えっ、なん、」
ぐっと腕を掴まれたと思ったら階段をどんどん上がらされる。
引っ張られているので、千歳の走るタイミングに着いて行きにくい。
「なんや自分、屋上は鍵掛かっとんのやぞ」
最上階から更に上に登ると、屋上に出る扉。その脇に少し続く踊り場の奥に千歳は忍足を押しやった。上り階段のダッシュで足がもつれる。
「痛って、何すんねんアホ!」
「すまんすまん。声が大きかよ」
壁で打った痛みを紛らわそうと体を捻ったとき。
痛む背中に温かい掌が
「あ?」
触れた。
『手当て』をするように、大きな掌で、ゆったりと背を包まれる。
「っちょ、ちょちょちょちょぉ千歳!何しとんねん!」
「お前の背中ば撫でとったい」
「そりゃ分かるけども!」
温かい・いや熱い手のひらに、心臓が跳ねる。痛みを飛ばすどころか、心拍すら飛ばされてしまった心地だ。
しかし、忍足はこの状況に目を白黒させているというのに、原因の千歳は失礼にも大きなため息を吐いてくる。
「はぁ〜、ホンに気付いてなかとや、謙也」
「何がや」
その心底呆れた声に状況を掻き消されて、忍足はムッとした返事を返した。
「自分が俺を見よる時の顔ばい」
「か、顔」
「いっつも俺に撫でられとうてしょんなかって顔しとるとよ」
ムッとしているどころではない。
「あっ、アホなこと言いなや!ボケ言うんもたいがいにせぇ!」
完全に頭にきて、千歳をはたいてやろうと身じろぐのに
「アホな事じゃなか。教えてやるけん」
たった一瞬強い眼で忍足を見据えると、ゆっくり腕に抱き込んでいく。顔を落として、耳朶の下に薄く唇を掠らせた。
「ち・とせ・」
くしゃくしゃの髪が頬に触れる。触れた所から急激に顔が熱くなってくる。鼓膜がおかしくなってしまったのか、千歳の心音しか聞こえない。
「千歳…俺、」
熱いと思った千歳の掌、それは掌だけじゃなく、自分を抱き込む体全体で。その熱に解かされたように、自分の感情がほどけていくのを感じ取る。
見るともなく天井の方へ目線を置いたまま、忍足の両腕がゆっくりと動いた。
「スマン俺、分かったわ…俺ずっと・自分ん事、好きやったんや・っ」
瞼を千歳の肩に押し付けて、動いた両腕は遠慮がちに彼のシャツを握る。
ははは・と、喉の奥だけで笑った振動がきつく触れる体に響いた。
「遅かね〜〜ぇ、スピードスターさん」
「〜〜〜〜〜
」
恐らくは無自覚のうちに好きになっていつも彼を目で追ってしまっているうちに向こうが視線に気付き、更に視線の意味に気付いてそして想い返してくれていたのだろう。なんと言う失態だろうと、忍足は押し付けた顔を上げることが出来なかった。
きっと今はあらゆる意味で顔が赤い。
上京してしまった従兄弟に、今ばかりは転げ回って爆笑されても見下した目で鼻で笑われても仕方がないと思う。
真っ赤になって固まっていたら、ぽんぽんとあやすように頭を撫でられた。
「謙也、せっかくだけんこんままさぼらんね」
「なに言うてんねん。お前オーダー決めに行かなあかんのやんか」
そうは返しつつ、シャツを掴んだ手は弛まない。
「…もう本鈴鳴っとっとよ」
「え」
1秒で行って来いと、不敵に笑った部長の顔が蘇る。
「あかん…千歳…」
「諦めも肝心ばい、謙也」
起きてしまった事はどうしようもない。
後で俺が何とかすっけん・と、いつも見惚れてた(らしい)笑顔で笑われて、どうせどやされるならもう1秒でも1時間でも一緒だと、忍足はニヤッと口角を上げた。
「ほな、さぼろか!何しようかなぁ千歳!」
END
…………………
タイトルどうしようかな…orz
ちとけん大好きです♪
千歳は大人の余裕がある気がする…!みんなタメなのにね!ヽ(`▽´)ノ
タイトル、また歌から取らせてもらいました☆
「ひそかに」は多分ひらがなだったかと思うんですけど…
何か、なにげなく合致した感じでないですか♪
「星」は忍足、忍足よりひそかに、相手の事を感じ取るのが千歳vV
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