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それはもう本気で聞き飽きたって言うたら、お前にはめちゃめちゃ嫌みやなって言われるんやろうけど。
これ以上もう一回だって聞きたくないねん。
お前の声でそれを。
「白石ィ〜〜。今日もぎょうさんやでぇ。人数だけな」
お昼の放送から帰って来た忍足が、腹の底からうんざりを噴出させながら親友の頭を軽い紙束ではたいた。
ぱしんと鳴った頭上を見上げればパステルカラー率90%ぐらいの色とりどりの洋封筒が数枚その手に握られている。
「もぅいらんわ…」
ぶっきらぼうに右手を振って肺の空気を根こそぎ吐き出すと
「うっわむかつく溜め息!こっちかてうんざりやおんなし質問ばっか!」
あらかさまに嫌な顔をして忍足は白石の前の椅子に勢い良く座り込んだ。
「コレはオマケやでほんま。口頭の質問の方がはるかに多いんやからな?自分がちゃんと答え用意せえへんからこっちが大変になるんやないか」
女子のお決まりの質問に白石が答えを用意しないので、伝言役にされた友人達は皆その場を治めるのが大変らしい。
ぐったりと机に寝そべった白石の手元に洋封筒の束をぞんざいに押しやる。
「せやかて〜」
「早よ模範回答決めぇや。たった3つやんか」
ほれこれだけ・と忍足が続けようとする質問。
わざわざ聞かずとも良く知るその3つに、白石の背中に冷たく電流が走った。
もぅ言うたらあかん。
一回だって聞きたくないんやって。。
「『白石先輩て付き合うてるコいてはるの?』『白石くんて好きなコおるの?』『白石ってどんなコが好きなん?』」
お前の声で それを 。
「はいーお答えをどうぞーモテ聖書様ー」
答えなんかとっくに、聞かれる前から決まっとんねん。
予鈴の音が、何故か引き金になった。
「わかった。ほないっぺんしか言わんから覚えてや」
チャイムの余韻が消えないうちに、教室がガタガタと騒がしくなる。
「おっ!何や答えあるんやないか〜よっしゃ早よ言い!」
これで難問から解放されると言わんばかりに声の弾んだ忍足の周りも、椅子を引く音とクラスメイト達が交わす会話が飛び交った。
いっぺんしか言わないと明言された白石の言葉を聞き逃してはいけないと、身を乗り出す。何せ自分が聞いたら自分が教えてあげなければならない。伝言役として捕まる友人達に。
「ほな、『付き合うてるか』はイエス『好きなコおるか』もイエス『好みのコ』は、」
「じっぶんホラ吹きすぎやろ〜!」
ぱっしーーん!
淀みなく並べられる模範回答のいい加減っぷりとベタさに、忍足は自分が預かってきたラブレターの束で白石の頭を思いっきりはたいた。
「付き合うてる〜ゆうて『誰と!?』『ラケットとです』って答えさせられたら殴られんの俺らやねんで!ホラは控えめに――」
「謙也、まだ答え終わってへんで。ちゃんと聞き」
「吹こうや――ん?あ、スマン、何やったっけ?」
「『好みのコは』」
「せやせや、あ、メモとっとこ」
携帯を取り出しメール画面に質問と答えを打ち込む忍足を待って、最後の質問の答えのために口を開く。
「はいはい、ええで!『好みのコ』は?」
忍足の眼も耳も右手の親指も、一言一句間違えずにメモるために全神経が白石の口に向いている。白石はひとつ、大きく息を吸った。
「アホかと思うほど元気で明るくて、後輩にどつかれてもめげなくて、マッハで走るテニスが大好きな俺の前の席に座っとる茶髪でショートの同級生や」
早打ちを誇る指が止まる。
「謙也、ちゃんとメモとったな?」
「……ホラ、吹きすぎやって言うたやろ」
淡々と回答を並べたトーンを変えることもなく、確認するくせに忍足の携帯画面を見ようともしない白石の、口元に固定させていた視線をその目まで押し上げた忍足の目が、胡乱な空気をぶつける。
「ホラ吹いとるように見えるんか」
が、視線を合わせた白石の眼も、負けないくらい剣呑だった。その鈍さに、忍足は思わず身を引く。
「…見えるわ」
しかし白石の眼には一度合わさった視線は外させない力があった。
「ホラ吹きはどっちやねん。見えとったら自分、さっきのみたいに笑い飛ばすんちゃうの」
「……」
瞬きも許さない眼光。
僅かに後ずさった忍足へ、今度は白石が知らず身体を乗り出していた。
唾を呑む音が同時に響く。
「…謙也、何で――」
「た、タチの悪すぎる冗談やっちゅー話やろ」
カラカラになった瞳が痛い。
徹底したマークを外せない目を叱咤して、忍足は無理矢理瞬いた。急激に水分を取り戻す瞳。
―――と、思わぬ量の涙に視界が歪む。
「!」
その事態に息を呑んだのは、白石の方で。
…ちゃうやろ、これは眼球を守るための生理現象や。
……っ言うたかて、あかんっっ…
勇気があるとか無いとか、理屈めいた物は一瞬でどこかへ消え去った。
携帯を握ったままの忍足の腕を掴む。動作は、既に脳と連動してはいない。
いつの間に本鈴が鳴ったのか、2組からも両隣からも廊下からも喧騒は消えている。
「謙っ、也、好きや」
『白石くんて好きなコおるの?』女子からの質問を伝えた忍足の声が
「俺と付き合うて」
『白石先輩て付き合うてるコいてはるの?』脳髄に反響してがんがんと響く。
「…っそな、冗っ」
「冗談とちゃう!!」
再び瞬きの機能を忘れた忍足の目を見据える視線は、最早〈睨む〉に近い。
「もう、我慢でけへんねん。お前が手紙持ってくんのも、お前の口からその質問聞かされるんも」
けれど、寄せられた眉根は懇願の様相を含んで。
「質問の答えは全部お前なんや。せやけど、最初のだけは……」
視線に負けたのは白石の方。言い淀んで瞬く。その視界で、忍足の唇が戦慄いた。
「……ほ、んまに、ええのんか、俺で…」
「けんや、」
聞こえてきた微かな音に、はっと顔を上げる。
「自分、アホかと思うぐらいモテとるのに、かわいい子ぉもキレイな子ぉもぎょうさん寄って来るのに、俺、」
思わぬ量だと思った涙は、決して不意のものではなく。
椅子と机がぶつかる音が閑散とした教室に響いた。
白石のカッターシャツの肩口が温かく濡れていく。
「謙也っ、スマン、ずっと嫌な役させとったんやな…ホンマにアホや俺、なんも見えてへんかった…」
「白石っ、」
シャツに吸い込まれてくぐもった声は、きつく抱え込んだその頭から直接振動して白石の鼓膜を揺らした。
「ずっと好きやってん。俺と、付き合うてや…」
・
・
・
「せやけど、結局女子には答えられへんよな?」
「や、言うてもええんちゃう?ほれ、うちには小春とユウジおるし」
「あ〜せやな〜ほなそれでいこ!みんなに聞かれたらそう言って切り抜けるように言うとくわ」
「よろしゅーよろしゅー♪」
END
………………
前半を作ったのはいつになるかな…orz
今日、「笑い飛ばすんちゃうの」のあとを一気に書いたので、ぶっちゃけ推敲も何もあったもんじゃありません
時間軸的には、「Treasure」と続く感じです。
宝物→宝石 …どんだけ乙女なタイトルなんだ!!って吹き出す通り、めっちゃ乙女な謙也に笑いが起きますね